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 プロミスリング 

細く白い指が、たどたどしく動いている。
神経を集中させているためか、それとも寒さのせいか、指先はかすかに震えている。
雪が降りそうなほど冷えた夜気にも耐え、少女は一途に想いを編み込む。
『勝也君が、試合に勝てますように』
七色の糸が鮮やかな幾何学模様へと変貌を遂げている。
胸が苦しくなるほどの想いは今、少女の指先に宿っていた。
しかし、指先の動きが早くなるほどに、少女の小さな心臓は本当の苦しみを味わっていた。
額には汗が浮かび、呼吸が不規則になるのにも耐え、少女はひたすら作業を続けていた。


そして。
最後まで持ちこたえた少女の意識は、糸を結び終えた瞬間、手離された。
意識を失いながらも、彼女の想いは一途だった。
『勝也君が...勝てますように』
力なく投げ出された掌には七色の糸を握り締めていた。

陽菜の欠席理由を知ったのは、県大会の決勝前日のことだった。
翌日の試合に備えた早朝練習を終え、サッカーボールを倉庫に片付けに行こうとしたときだった。
「坂本君」
ふいに呼び止められた声の暗さに驚いて振り返ると、桜井知美が立っていた。
「これ、陽菜から」
差し出されたのは、小さな紐のようなものだった。
すぐに、プロミスリングだと分かった。
カラフルな糸で作られたリングを腕に付けて、糸が切れたら願い事が叶うというものだ。
そんな御守りのような物が女子の間で流行っているということは聞いていたし、サッカー部の部員にも着けている奴が何人かいたから存在は知っていた。
好きな人に手製のプロミスリングを贈るという話も聞いたことがあったし、恋人同士でお揃いを付けるという話も聞いていた。
桜井から受け取ったプロミスリングは七色の幾何学模様が編みこまれたものだった。
陽菜らしい色使いだ。
「陽菜が、試合がんばってって」
胸の奥から搾り出すような桜井の声に、何か嫌な予感を感じた。
2日前から陽菜は学校に来ていない。
流行のインフルエンザにかかったと聞いていたが、違うのだろうか。
赤くはれた目をした桜井を見ていると、不安が募った。
「陽菜、いつ頃学校に来れそうだって?」
震えそうになる声を抑えて、わざと陽気に聞いてみた。
それでも不安はぬぐえない。
唇を噛み締めている桜井の目にうっすらと涙が溜まるのを見て、予感は実感へと変わっていく。
「陽菜、明日手術なの」
「え...?」
「2日前の夜、心臓発作で倒れたの。今も意識不明の重体」
現実は予想をはるかに超えていた。
心臓発作。
映画やドラマのような、遠い世界での病気だと思っていた。
まさかこんなに近くで、しかも自分の恋人の身に起こるなんて思いもしなかった。
「もともと強くなかった心臓が、日常生活にも耐え切れないほど弱くなって、陽菜の体を支えることが出来なくなるくらい悪くなっていたみたいなの。それなのに、平気なふりして無理してばかりだったから、心臓が耐え切れなくなってしまったらしいの」
元々強くなかった心臓、という言葉が胸に突き刺さった。
色白で華奢な陽菜。
確かに病弱なほうだなとは思っていた。
それでも、太陽のように朗らかな彼女が心臓に大きな問題を抱えているなんて気づかなかった。いや、気づこうともしなかった。
そういえば、体育の授業は休みがちだった。水泳の授業はいつも見学していた。
夏休みに海水浴に行くのを躊躇う陽菜を、からかったりしていた。
箱入り娘だな、なんて。
思えば、陽菜の病気に気づく機会はいくらでもあった。
それなのに。
気づいてやれなかった。
誰にも何も言わないで、一人で苦しみに耐えていたなんて。
それなのに、あんなに屈託のない笑顔で幸せな気分にさせてくれていたなんて。
激しい怒りがこみ上げてくる。
自分のことを許せなくなるほどの、自己嫌悪。
「気づいてあげられなかった。心臓が弱いこと、知っていたのに。心臓移植が必要になるくらい、悪くなっていたなんて...」
桜井もきっと同じ気持ちでいるのだろう。
涙を堪えている顔は悔しそうに歪んでいる。
小学校からずっと同じ学校で11年間の時を過ごしてきた桜井にとっても、陽菜はかけがえのない存在だろう。
彼女も気づいてやれなかったことで自己嫌悪に陥っている。
親友と恋人。関係は違っても、陽菜を大切に思う気持ちは同じはずだ。
「ごめんね、明日県大会なのに。陽菜の気持ちを考えたら、黙っていないといけない事だったんだけど、辛くて」
涙目を乱暴に擦ると、桜井は無理矢理笑顔を作った。
「明日の試合、頑張ってね。それが陽菜の願いだから」
「でも、明日、手術なんだろう?」
「うん。陽菜が元気になるための、心臓移植手術」
心臓移植手術。
医学の知識がなくても、それがどんなに難しい手術かということは分かる。
ニュースで心臓移植手術のためにアメリカに行くという話も聞いたことがある。
移植するということがニュースになるほど、難しい手術なのだ。
「だったら、試合どころじゃ...病院で、陽菜の傍にいてやりたい」
「だめよ、そんな事をされても陽菜は喜ばないわ」
猛反対する桜井の視線が、プロミスリングを見つめた。
試合、がんばって。
手の中のプロミスリングが震えた気がした。
陽菜の笑顔さえも見えるような気がする。
「陽菜、うわ言でずっと呟いていたんだって。そのプロミスリングを握り締めて、勝也君、県大会頑張ってって。だから、明日の試合、がんばって」
涙が、押し寄せてくる。
自分が苦しいときなのに。
いつも自分のことよりも、人のことばかり心配して。
プロミスリング。
願いを叶えてくれるなら、陽菜に笑顔を返してください。
元気な笑顔を陽菜に返してください。
強く、強く、願いをこめて。
虹色のプロミスリングを左腕に巻きつけた。
2007/11/02 | 22:50
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